ブログ/ BLOG

  1. ホーム
  2. ブログ
  3. IT企業法務
  4. AIエージェントの法的論点(民法、個情法、著作権法ほか)|知的財産・IT・AIの法律相談なら【STO…

IT企業法務

AIエージェントの法的論点(民法、個情法、著作権法ほか)

アバター画像 杉浦健二

本稿では、AIエージェントと民法、個人情報保護法、著作権法、独占禁止法、景品表示法、弁護士法における法的論点を概観する。

 AIエージェントとは

AIエージェントとは、与えられた目標の達成に向けて最適な手段を自律的に選択し、タスクを実行する技術を指す。会話の音声を入力すれば、要点をまとめた議事録をAIが自律的に作成するAI議事録作成サービス(音声認識→要約→整形までを自律的に行う。Nottaなど)や、チャットで指示をすると、人間のエンジニアのように自律的にコーディングをしてソフトウェア開発をするサービス(米Cognition社のDevinなど)は、いずれもAIエージェントの一種である。一定レベル以上の自動運転もAIエージェントに含まれる。

日本総合研究所の報告書1株式会社日本総合研究所 先端技術ラボ「AIエージェントが顧客になる日~自律型AIへの販売戦略を考える~」(2025年3月27日は、AIエージェントの顧客化の兆候が早期に表れている領域として、①顧客に代わってサイトの検索・閲覧・要約をする「検索/調査」②顧客に代わって商品の比較・検討・購入する「デジタルコマース(EC購買)」③顧客に代わってプランニング・予約・手配する「旅行・観光」④顧客に代わって価格交渉・納期調整する「サプライチェーン交渉」の4領域を挙げる。

日本総合研究所 先端技術ラボ「AIエージェントが顧客になる日~自律型AIへの販売戦略を考える~」より引用

ChatGPTのDeepReserchなど、ウェブ検索結果を用いたLLMによる出力物生成機能も、ユーザーが検索先のウェブページを指定するのではなく、ユーザーが入力したプロンプトに基づいてAIが自律的にウェブ検索を実施し、収集した情報をもとに出力を生成する機能であり、検索/調査領域のAIエージェントにカテゴライズされる(検索型AIエージェント)。

たとえばOpenAIのAIエージェントであるOperatorは、ユーザの指示に従い、レストランを検索して予約までを行うことができる(該当レストランをウェブ検索→予約専用サイトを検索→空き状況を検索→予約手続きまでを自律的に行う)。アクションの対象となるレストランウェブサイト(レストラン予約ポータルサイト)とAPIで連携されている必要はなく、人間がウェブブラウザ上で行う操作をAIエージェントがエミュレート(模倣)し、Webページのボタンを「クリック」し、ページを「スクロール」して、入力フォームに「文字を入力」するといった動作を実際に行うことでタスクを実行する仕組みである(GUI:Graphical User Interfaceを介したアクション)。

AIエージェントについては、Googleの検索結果表示時におけるAI要約機能に引用されることでクリック数が増加し、逆にAI要約機能に引用されなかったURLのクリック数が減少し、検索結果内にある有料広告のCTRが半減したという指摘もされている2James Taylor, ”The AI Overview: How Will It Impact Organic Performance?”(2025.6.17最終確認)。今後は「いかに検索型AIエージェントに引用されるか」という視点でのコンテンツ作成や(AIを想定したSEO対策)、「いかにAIエージェントに選ばれるか」という視点でのサービス作成が重要となってくる可能性がある。

AIエージェントと民法

AIエージェントは、与えられた目的を達成するためにAIが自律的に判断・行動するものであるところ、AIが人間に代わって意思表示を行い、売買契約等の法律行為をする場合がある(前項資料の4領域のうち②③④)。

現在のAIエージェントの大半は、売買契約締結等の最終行為の直前に、人間が最終確認する機会が設けられている場合がほとんどであり3OpenAI社のOperatorのほか、Amazonの代理購入型AIエージェントであるBuy for meも、最終的な購入確定は人間が購入ボタンを押す仕組みとなっている。、この場合、AIエージェントは人間による意思表示の支援サービスと位置づけられる。

AIエージェントは代理人なのか?

これに対し、法律行為の完結までをAIが自律的に行うAIエージェント(法律行為代行型AIエージェント)が登場した場合の法的整理は悩ましい。

AIエージェントを直訳すると「AI代理人」となるが、AIエージェント自体に法人格はないため、人間の代理人のように民法の代理に関する規定(無権代理、表見代理等)をAIエージェントに直接適用することはできない。

ユーザが外部のAIエージェントサービスを利用する場合、AIエージェントサービスの提供者に対して任意代理権を付与し、与えられた代理権の範囲で意思表示をする業務を委託する契約であると構成できる可能性はある。他方で、ユーザがAIエージェントを自らの管理・支配領域で稼働させる場合、AIエージェントはユーザ自身の手足としてアクションするに過ぎず、AIエージェントによる意思表示はユーザ自身の意思表示と同視することができる。以下では後者の整理を前提とする。

AIエージェントが誤った意思表示をした場合

たとえばユーザがAIエージェントを利用してりんごを10個購入しようとしたが、AIエージェントがユーザの意思とは異なる申し込みをし、りんごを100個購入したとする。

契約の相手方(りんご販売事業者)に対しては、錯誤取消し(民法95条)を主張することが考えられるが、ユーザのAIエージェントに対する指示内容が抽象的であった場合等は、ユーザ側に重過失(同条3項)が認められる場合もあると思われる。

BtoCの電子契約(電子消費者契約)の場合、事業者側が確認措置(電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置)を講じていなかったり、消費者側から当該措置を講ずる必要がない旨の意思表明をしていない場合、民法95条3項は適用されない(重過失があっても錯誤無効を主張できる。電子消費者契約法3条)。かかる事態を回避するため、Eコマースを提供する事業者側は、通常、確定的な申込みとなる送信ボタンを押す前に、申込みの内容を表示して訂正する機会を与える画面(最終確認画面)を設けるといった確認措置を講じている。法律行為代行型AIエージェントを利用する場合、ユーザは最終確認画面を見ることなく、確定的な申込みに至る可能性もある。法律行為代行型AIエージェントを利用している旨を消費者が事業者側に示していた場合は「消費者側から当該措置を講ずる必要がない旨の意思表明」に間接的に該当すると評価される可能性もあるかもしれない。

利用規約への同意をAIエージェントが行う場合など、AIエージェントが自律的にした意思表示の有効性が問題となる場合は少なくないと思われる。AIエージェントを介した取引においては、ユーザの指示内容の具体性、取引相手方となるEコマースサービスの仕様(UIや使用言語等)等から、AIエージェントがユーザの意思と異なる意思表示をする可能性を常にはらんでいる。当面は、最終確認画面をAIエージェント内で表示する等して、ユーザ自身である人間が意思表示に関与する機会を付与される方針(HITL:Human-in-the-Loop)が維持されると思われるが、遠くない未来に、法律行為の完結までを自律的に行う代行型AIエージェントが登場するとも思われ、本稿で触れたような法的問題は現実化する可能性がある。 

AIエージェントと個人情報保護法

売買契約等を代行するAIエージェントの場合、ユーザ自身は対象サービスのプライバシーポリシーを一切見る機会がない可能性もある。売買契約の締結に先だって、プライバシーポリシーへの同意手続きをAIエージェントが代行して行う場合、個情法上の同意の有効性(個情法27条、28条等)も問題となりうる。
AIエージェントサービスの提供者としては、外部のEコマース事業者のウェブサイトにおける売買契約等を代行する場合においても、AIエージェント内において最終確認画面を表示するとともに、当該外部ウェブサイトのプライバシーポリシー等もあわせて表示し、ユーザがこれらのドキュメントを直接確認する機会を付与する仕組みを導入する方針が考えられる。

またAIエージェント自身も、ユーザの行動履歴を学習し、ユーザの趣味嗜好に適合した行動をとるため、プロファイリング技術を用いていることになる。AIエージェントサービスの提供者は、ユーザの個人情報をこれらのプロファイリング目的で用いることを利用目的で特定する必要があるだろう(個情法17条1項)。

AIエージェントと著作権法

検索型AIエージェント(ウェブ検索結果を用いたLLMによる出力物生成機能)の仕組み

ChatGPTの「ウェブを検索する」機能に代表されるLLMにおけるウェブ検索機能は、検索型AIエージェントに分類される。具体的には
①ユーザーのプロンプトに基づいて検索クエリを自動生成し
②検索エンジン(ChatGPTの場合はBing)から関連するウェブページを検索し
③当該ウェブページから抽出・要約した内容をプロンプトと統合してLLMに入力することで
④出力を得る
といった仕組みが代表的である。

出力内容が原著作物と同一又は類似しない場合

LLMにおけるウェブ検索機能では、
・外部ウェブページ情報の取得(上記②)
・LLMへの外部ウェブページ情報の入力(上記③)
・LLMからの出力(上記④)
といった各行為が、それぞれ原著作物(外部ウェブページ情報)の複製、翻案等に当たる可能性がある。

外部ウェブページ情報が著作物に当たる場合において、LLMから出力された内容が原著作物と同一又は類似しない場合は、原著作物を享受する目的が併存しないものとして4文化庁文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(19 頁)、外部ウェブページ情報の取得(上記②)、LLMへの外部ウェブページ情報の入力(上記③)とも著作権法30条の4により原則として適法となると考えられる。原著作物と同一又は類似しない以上、出力(上記④)は原著作物の利用行為とはならず、これも適法となる。

出力内容が原著作物と同一又は類似する場合

著作権法30条の4(非享受利用)

これに対し、LLMから出力された内容が原著作物(外部ウェブページ情報)と同一又は類似する事態が頻発する場合には、外部ウェブページ情報の取得(上記②)、LLMへの外部ウェブページ情報の入力(上記③)について、いずれも享受目的が併存しているとして著作権法30条の4が適用されない可能性がある。

著作権法47条の5(軽微利用)

次に著作権法47条の5(軽微利用)の適否が問題となる(上記②③について同条2項、上記④について同条1項)。著作権法47条の5は、検索結果の提供等のために必要な行為であれば、付随性要件や軽微性要件等の一定の要件を満たすことを条件に著作物を利用することができることを定める。検索型AIエージェントの場合、出力(表示)において原著作物である外部ウェブページ情報の表示が主となる場合は、付随性要件を満たさない可能性がある。また出力される外部ウェブページ情報と同一又は類似する情報の割合等によっては、軽微性要件を満たさないと評価される場合もある。

著作権法32条1項(引用)

では著作権法32条1項(引用)が適用される可能性はあるか。出力段階(上記④)における利用については、当該出力が引用要件を満たす限りは同条項が適用されることになる。ただし現状のLLMにおけるウェブ検索機能を見る限り、明瞭区分性が認められないと思われるサービスも少なくないと思われる。
なお出力が引用要件を満たす場合、外部ウェブページ情報の取得(上記②)、LLMへの外部ウェブページ情報の入力(上記③)の各行為についても、引用の前段階の準備行為として、必要かつ合理的と認められる限度であれば許容される可能性がある。

AIエージェントと独占禁止法

AIエージェントは、ユーザの設定した目的を達成するために、さまざまな外部サービスを検索し、提案、意思表示を代行・支援する。仮に巨大なシェアを占めるAIエージェントが提案する外部サービスが、AIエージェント提供者自身が提供するサービスばかりである等、自社サービスを他社サービスより優先的に取り扱っている実情があった場合、独占禁止法上の問題を生じる可能性がある。スマホ競争促進法では、検索エンジンに係る指定事業者は、検索結果の表示において、自社のサービスを、正当な理由がないのに、競争関係にある他社のサービスよりも優先的に取り扱ってはならない旨が定められているところ、今後、AIエージェントについても同様の規制が設けられる可能性もある。 

AIエージェントと景品表示法

OpenAI社のOperatorの場合、AIエージェントは対象となるウェブサービスのGUI(グラフィカルUI)を介して、直接クリックや入力等のアクションを行う。今後、AIエージェントによって検索されることを想定したウェブサービスが増加すると思われるところ、AIエージェントを誤認させることを企図した不当表示を行う事業者の登場も予想される。人間のみならず、AIエージェントに対する表示についても、景品表示法の規律に含まれることが明確化されるべきと考える。

他方で、AIエージェントによってなされた外部サービスの提案について、当該外部サービス事業者がその提案内容の決定に関与していた(例えば外部サービス事業者がAIエージェント事業者に課金する等して自社サービスが他社より優先的に提案されるようにしていた)にも関わらず、そのことがユーザーである一般消費者からみて分からないといった事例も増える可能性がある。このような場合は、当該外部サービス事業者はいわゆるステルスマーケティング規制の対象になる可能性も生じると思われる。

AIエージェントと弁護士法

AIエージェントが、ユーザに代わって価格交渉等を行うサービスは現に存在する(冒頭資料の4領域のうち④サプライチェーン交渉)。仮に紛争解決の交渉代行までをするAIエージェントが登場した場合、法律事件に関する法律事務を取り扱うものとして、弁護士法における非弁禁止規定(弁護士法72条)に抵触する可能性も生じる。AIエージェントサービス提供者としては、このような非弁行為をAIエージェントに行わせることはできない旨を利用規約等で定めるほか、ユーザから非弁行為を行う指示がなされてもAIエージェントは従わないシステムを構築しておくことが必要となるだろう。
弁護士杉浦健二

  • 1
    株式会社日本総合研究所 先端技術ラボ「AIエージェントが顧客になる日~自律型AIへの販売戦略を考える~」(2025年3月27日
  • 2
    James Taylor, ”The AI Overview: How Will It Impact Organic Performance?”(2025.6.17最終確認)
  • 3
    OpenAI社のOperatorのほか、Amazonの代理購入型AIエージェントであるBuy for meも、最終的な購入確定は人間が購入ボタンを押す仕組みとなっている。
  • 4
    文化庁文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(19 頁)

 

STORIA法律事務所へのお問い合わせはこちらのお問い合わせフォームからお願いします。